明治時代、輸出用美術工芸として人気を博した七宝。並河靖之(1845-1927)は、その中でも繊細な有線七宝により頂点を極めた七宝家です。没後90年を記念する本展は、初期から晩年までの作品を一堂に会する、初めての回顧展です。
京都の武家に生まれた靖之は、久邇宮朝彦親王に仕えたのち、明治維新後に七宝業に取り組み始めます。知識や資材が無い中、試行錯誤して技術・意匠の改良を進め、やがて内外の博覧会で成功を収めます。工房には外国からの文化人が多数訪れ、“京都並河”ブランドは新聞や雑誌を通して海外へと紹介されました。明治29年(1896)には帝室技芸員となり、当代一流の工芸家としての地位を確立します。大正期に入ると七宝業全体の生産額が落ち込み、並河も工房を閉鎖、その名は次第に忘れ去られて行きました。
しかし近年、明治工芸への関心の高まりに伴い再び注目が集まっています。細密な植線、豊かな色彩、四季折々の花鳥風月、そして研ぎ澄まされた透明な黒い釉薬―。類まれな技術のみに留まらず、洗練された感性に基づき制作された七宝は、100年以上の時を経てなお光を放ち、人々を魅了します。本展では、国内外の七宝作品に加え、下絵等の関連資料を通して、その全容を明らかにします。
主催
公益財団法人東京都歴史文化財団東京都庭園美術館、毎日新聞社
後援
ブリティッシュ・カウンシル
協力
日本航空
協賛
岡村印刷工業
年間協賛
戸田建設
東京都庭園美術館と工芸
東京都庭園美術館は、1920-30 年代に流行したアール・デコ様式の建築を利用した美術館で、その保存状態のよさは世界でも希少なものとい われています。旧朝香宮邸としても知られる同館は、ルネ・ラリックらの装飾芸術家による内装をそのまま展示室として活用し、建築自体が美術品ともいえる空間ならではの展示を行っています。敷地内には茶室を備えた日本庭園(現在整備中)があり、時代や国籍にとらわれない空間のなかで、デザインや工芸も含めた多様な展覧会を開催しています。
会場
東京都庭園美術館
アクセス
JR山手線「目黒」駅東口/東急目黒線「目黒」駅正面口より徒歩7分。都営三田線・東京メトロ南北線「白金台」駅1番出口より徒歩6分。
〒108-0071 東京都港区白金台5-21-9