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インタビュー 工芸を動かす人 File#005 関美工堂 関 昌邦

 

若手漆職人が生まれる開かれた場で、漆の未来をつくる
ヒューマンハブ天寧寺倉庫 関 昌邦

(写真)株式会社関美工堂 代表取締役社長、ヒューマンハブ天寧寺倉庫 代表 関昌邦さん

日本有数の漆器の産地として知られる会津若松。ここで、安土桃山時代から続く会津漆器の伝統を後世に伝えていこうとしている人がいる。若手漆職人(木地師・塗師・蒔絵師)の自立を応援するシェア工房・ヒューマンハブ天寧寺倉庫を運営する関 昌邦さんに話を聞いた。

 

かつて会津若松には、木地師、塗師、蒔絵師と、数多くの匠の漆職人が活躍していた。しかし近年は職人の数が激減し、漆器業の存続すら危ぶまれている。

3代にわたり会津で漆器業を営む、関美工堂の関 昌邦さんは、市場の落ち込みを肌で感じてきた。
「私が子どもの頃は、自宅横にあった会社に100人以上の従業員がいました。まちも会社も活気に満ちていましたが、2003年に家業を継ぐためにUターンで戻ってきた時は、わずか35人に減っていました」

関美工堂は1946年創業。1948年に表彰記念品として日本ではじめて「楯」を発案・製造化し、それまでカップとメダルしかなかった表彰記念品に新しい市場を生み出した。会津塗の板に半立体の合金金具を施した楯は高級感があり、日本レコード大賞でも採用されるなど、時代に旋風をもたらしてきた。

しかし、時代とともに安価な模倣製品が増え、表彰記念品需要が質より見た目や価格へと変わっていくと、会津塗の伝統技法を用いた高価な漆の楯は需要が減っていく。これは同社の楯に限った話ではなく、漆器需要全体に同じことがいえた。
「1989年以降、会津の漆器業は衰退の一途をたどっています。木地は13分の1、漆塗は32分の1に減り、ここ15年は横ばいが続いています。熟練職人の高齢化が進み、弟子を取ったとしても、継続的に仕事ができる場を見つけるのが難しいので、若手漆職人は自力で仕事場をつくる設備投資を行うことさえ困難です」と関さんは現状を憂う。

対策を講じても、実際に効果が出るのは何年も先になる。だからこそ、一日も早い対策が必要だと考えた関さん。これまでにないしくみで、会津漆器の修復・再生に取り組むことが必要だと考えるようになった。

「1万年以上前から日本人が暮らしに取り入れてきた漆は、日本文化の礎です。
この漆の本当の価値や魅力を次世代に繋いでいくためには、新しい時代に合わせた新しい場をつくり、人、モノづくりの仕組み、マーケットとの接点を変えることが必要だと思いました」(関さん)

そこで、関さんは会津若松の街中にある旧本社兼倉庫を改築し、若手漆職人のシェア工房をつくることを思いついた。
「従来の徒弟制は、木地師、塗師、蒔絵師がそれぞれの親方に弟子入りするので、お互いの交流はあまりありませんでした。
シェア工房にすることで、違う役割の職人同士に交流が生まれれば、従来の固定観念から解放され、おもしろい漆器が生まれる可能性が広がると考えました」(関さん)

さらに関さんは、建物内にカフェや店舗、コワーキングスペースを設けることで、これまでの作り手の交流範囲とは全く異なる異業種の人々との交流創出も狙った。
「自由で開かれたモノづくり環境ができれば、量だけでなく質を伴って生産基盤を再生できます。新しい時代に合わせた新しい場で、次世代への好循環を生み出せると期待しています」

関さんがこのシェア工房を立ち上げようと思ったのは、これまで自身が常に新しいことに挑戦することで人生を切り開いてきたからだ。

関さんは東京の大学を卒業後、「宇宙関連の仕事をしたい」と、現在のスカパーJSATに入社。通信・放送衛星事業の企画部門に従事したのち、現・宇宙航空研究開発機構(JAXA)で次期通信衛星のアプリケーション開発に携わってきた。
しかし父親が倒れたのをきっかけに、家業を継ぐことを決意。2003年にUターンすると、2005年に会津塗「BITOWA」を立ち上げ、国内外のデザイン系プロダクト、手仕事などを扱うライフスタイルストア美工堂の運営を開始。2007年に3代目就任後は、漆の機能に焦点を当てたアウトドア漆製品「NODATE」、暮らしの道具「urushiol」を発表するなど、年齢性別国籍を超えた漆ファン獲得を実現してきた。
さらに近年は仕事の領域を拡げ、職人の手仕事、地域の素材・技術・コミュニティを活かして空間デザイン・衣類プロデュースなども手がけている。

「関美工堂は、『不易流行』という考え方を大切にしています。『不易』は時代の新古を超越して不変なるもの、『流行』はそのときどきに応じて変化してゆくものという意味ですが、この2つは対立するものではありません。新しみを求めて変化を重ねてゆく流行性こそが、不易を生み出す源泉だということを表しています。私たちがいま会津で携わっている伝統的な産業や文化を未来につなぐための理念の根幹は、この言葉に集約されていると思っています」

シェア工房という新たな「流行」で、伝統の会津漆という「不易」を未来につなげていく。
ヒューマンハブ天寧寺倉庫の快進撃は、ここから始まる。

 

Human Hub天寧寺倉庫
http://sekibikodo.jp/mononofu/human-hub%E5%A4%A9%E5%AF%A7%E5%AF%BA%E5%80%89%E5%BA%AB/

クラウドファンディング
若手漆職人のスタートアップを応援するシェア工房から、日本の漆工芸を元気にしたい!
https://camp-fire.jp/projects/view/550471?list=projects_fresh

[by 相澤洋美]


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