Topics

インタビュー 工芸を動かす人 File#004 秋元雄史

オープニング国際フォーラム「工芸と世界」のModerator[Webinar 2022/9/18]

秋元雄史
あきもと・ゆうじ

Akimoto Yuji

練馬区立美術館館長/GO FOR KOGEI 総合監修

日本工芸週間オープニング国際フォーラムにてご登場いただく秋元雄史さんは、北陸三県を舞台に工芸の魅力を国内外に発信しようという試み、「GO FOR KOGEI」をプロデュースしています。
今日は工芸と地域の関係、そして「GO FOR KOGEI 2022」のテーマでもある、工芸や現代アートといったジャンルを超えた、素材とものづくりの新たなあり方について語っていただきました。

──以前直島でベネッセアートサイト直島のアートプロジェクトに携わっていらっしゃいました。あの一帯の島々は「香川県」であったり「岡山県」であったりするわけですが、秋元さんは「瀬戸内」という言葉を思い描いていらしたそうですね。そのあたりからお聞かせいただけますでしょうか。

芸術活動というのは─特に地方でやる場合には─そこの文化と結びつけて考えていかないと根無し草になってしまうという感覚がまずありました。何か新しいことをしたいときに、行政区分や地域コミュニティーにのっかってしまうと、なかなか思うように進まない。ですから既存の行政区分に囚われない形で、地域が持っている文化的・歴史的なものを素直に改革したり、新しいことを始めてみたいと考えたときに、それまで使われていなかったエリア概念である「瀬戸内」を使ってみたらと思ったのです。社会を動かすタームとしては、それまでほとんど誰の意識にも上っていませんでしたから。

秋元さんのいままで
1991年からベネッセアートサイト直島のアートプロジェクトに携わり、地中美術館館長、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターを経て金沢21世紀美術館館長、東京藝術大学大学美術館館長・教授を歴任し、現在は練馬区立美術館館長を務めています。2021年からは、北陸三県を跨ぐ工芸祭「GO FOR KOGEI」をディレクション。各地域に長く根ざした歴史ある社寺仏閣で作品を展示し、土地とアートの関係性を追究しています。

──「GO FOR KOGEI」は「北陸工芸の祭典」ですね。

富山、石川、福井という「県」、あるいはもっと小さい富山市、金沢市、といった「市」ですね、そういう既存の行政区分の中だと、今まであるものに足元を取られてしまうので、もっと新しい発想で自由なエリア創造をしたいと。その上でなおかつ地理的・歴史的背景とも結びついてやりたくて「北陸」というくくりになりました。「北陸」にまでしちゃうと、行政区分からの物言いも付けにくくなる広さでしょう?(笑)

──ずっと現代美術に関わっていらした秋元さんが、工芸に目を向けられるようになったのは、なにかきっかけのようなものがあったのでしょうか?

直島にいたころからずっと抱いてきた疑問なのですけれど、場所や地域から全く自由に「文化」が存在することはあるのだろうか?と。「NYの文化」「東京の文化」といった大都市のグローバリズムに対しても「本当かな?」というような、また逆に、偏狭なナショナリズムやローカリズムにも、その息苦しさに疑問を抱き続けてきました。それらの間を行ったり来たりするものがないだろうか、という発想があったのです。
工芸の発見もそれに近くて、例えば現代美術に関して言えば、材料やアイデアの自由さは飛び抜けてあるんですね、「なんでもあり」的に。一方で工芸は、材料だとか技法も含めた素材の扱い方だとか処理の仕方だとかに「こうでなければならない」やっかいな縛りがある。現代美術目線だと無視していいとなるようなことが、工芸の世界ではややこしい現実として「縛り」になっていて、そこに面白さがあると感じました。こうした「縛り」は歴史的にブラッシュアップしてきた先人の知恵の蓄積であって、それに対して反発するにせよ、無視するにせよ、継承するにせよ、とりあえずは知っておいたほうがいいのではないかと。そういう面白さから、工芸的出発を意識し始めました。

──周囲と協働し、考えながら進むプロジェクトとして「工芸建築」を提唱していらっしゃいますが、その次のステージは何か考えておられますか?

工芸という世界は「工芸」というカテゴリの中だけで考えるとあまり面白くないな、ということは前から感じていたのですが、それが確信に変わりつつあります。工芸は歳月の中で人間が獲得してきた「技術」であって、すなわちハードではなくてソフトなのだと思います。人間国宝(国の重要無形文化財保持者)の制度なんて、まさしく「作品」ではなくて「技術」に価値を認めて顕彰するシステムですよね。工芸は技術(ソフト)であるがゆえに、建築、アート、デザインなど、さまざまなジャンルを横断することが可能なのです。そうやって、技術を工芸の中だけでなく幅広く解き放ち、ボーダーレス化してジャンルを問わず結びつけていくようなことをしていくと面白いのではないかと。
マインドや技法、これら「人だからこそ継承できる技術」を、「工芸的なもの」として忘れずにいることが大事なのだと考えています。

 

GO FOR KOGEI
https://goforkogei.com

KUTANizm
https://kutanism.com

練馬区立美術館
https://www.neribun.or.jp/museum.html

[「watoji」編集部]


オープニング国際フォーラム「超!工芸」の詳細と参加登録は以下から
[9/18開催]日本工芸週間オープニング国際フォーラム「超!工芸’22」申込受付開始 Japan Craft Week Opening International Forum|Super Kogei 2022