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インタビュー 工芸を動かす人 File#003 駿府の工房 匠宿 山梨洋靖 × 杉山浩太

 


「大好き」と情熱で静岡工芸を次世代につなぐ
駿府の工房 匠宿 山梨洋靖 × 杉山浩太

(右)デザインオフィス創造舎 代表取締役 山梨洋靖さん
(左)「匠宿(たくみしゅく)」 統括責任者 営業課長 杉山浩太さん(デザインオフィス創造舎所属)

静岡には、今川・徳川の時代から受け継がれてきたさまざまな伝統工芸が今なお受け継がれている。
「駿府の工房 匠宿」は、そんな江戸時代から静岡市に伝えられている伝統工芸を、職人に学びながら体験できる国内最大級の工芸体験施設だ。陶芸、駿河竹千筋細工、駿河和染、指物、駿河漆器などの伝統工芸を、第一線で活躍する現役の職人から直に教わることができる。

 

なぜ、静岡にはこれほど数多くの伝統工芸が受け継がれているのか。匠宿の統括責任者・杉山浩太さんはこう解説する。
「徳川家康が隠居した後、駿府城、久能山東照宮、浅間神社造営のために全国から静岡に高度な技術をもつ職人を呼び集めたからだといわれています」

そんな歴史的背景もあり、静岡市民にとって伝統工芸は、当たり前に暮らしのなかにあるものだったと杉山さんは話す。しかし近年は、効率化と画一化で伝統工芸のニーズが減り、職人の数も減っているのが課題とされてきた。
こうしたなか、匠宿では「体験を通して伝統工芸の魅力を伝え、技を後世に受け継いでいこう」と、果敢に挑戦を続けている。

 

三方を山に囲まれた気持ちいい空間が広がる匠宿の敷地内

 

匠宿の指定管理者であるデザインオフィス創造舎は、既存のスタイルにとらわれずに唯一無二となる価値を提供している一級建築士事務所だ。「情熱は、やがて文化になる」を企業理念に掲げ、地域愛と情熱で、本社を構える東海道五十三次19番目の府中宿まちづくりを長年手がけてきたことも高く評価され、匠宿の指定管理者に選定された。
創造舎の代表を務める山梨洋靖さんは、「匠宿の来場者数ではなく、体験者数を増やしたい」と目標を語る。「ただの体験型観光施設ではなく、現役の職人から教わりながら伝統工芸を体得できる場にしたいんです。そのために『10年で100人の職人を生み出す』という高いゴールを設定して、“本物”が学べるよう、まずは静岡の伝統工芸の職人たちを『工房長』として迎えるところからスタートしました」

これまでの体験型施設に足りないのは職人だと感じていた山梨さん。「インストラクターからは手順を教わることはできても、ものづくりへの思いや情熱までは学ぶことが難しく弟子入りもできない」と考え、第一線で活躍する現役の職人を一人ひとり口説き落として匠宿に参画してもらった。職人の技術を目の前で見て、さらにその職人に教わりながら自分でも作品を仕上げることで、その道を目指す未来の承継者育成につなげたいと山梨さんは意気込む。

 

工芸体験には、到着してすぐできる”体験”と、より深く学べる”教室”がある

 

大事にしているのは、「楽しく、面白く、かっこよく」。「楽しくなければ続かないし、かっこよくない人の下に人はつかない」と山梨さんは持論を展開する。
「作り手がいなくなってしまえば、伝統工芸は途絶えてしまう。『職人になるには、修業僧のように何年も苦しい下積みをしてようやく一人前』という時代もありましたが、いまはそうではない。楽しみながらいろいろな体験を重ねることで、それがいい作品にもつながっていく」と山梨さんは期待を込める。

カフェや工芸品のセレクトショップ、地元銘菓の製造販売、クラフトビールの醸造所と次々と「しかけ」を増やしているのも、楽しい体験を提供したいという思いがあるからだという。「数時間の体験で終わりではなく、また来たくなる場所にしたい。そのために、古民家宿やオーベルジュのレストラン、温泉街の復活など、匠宿近郊の鞠子宿泉ヶ谷エリアを巻き込んだ、里山工芸観光地を目指しています」(山梨さん)

匠宿のコンセプトに「歴史と未来を結ぶ場所」と掲げているのも、ただの観光施設で終わらせないためだという。「この先100年後も残していくためには、伝統工芸が“一部の人の趣味”ではなく、“産業”にならなくてはいけない。『1時間いくら』の体験だけでは、楽しい観光の思い出にはなっても、職人は育ちません。ですから、匠宿では気軽な体験コースのほかに、本格的にものづくりを学ぶ場も設け、その道を目指す若い世代にも広く門戸を開いています」(杉山さん)

匠宿に参画する陶芸家の前田直紀さんは「伝統を守るためには変革が常につきまとう」と話す。「昔ながらのやり方を大事に守ることも大事ですが、そうじゃないやり方があってもいい。いまは多様性が重視される時代です。バックボーンも仕事の内容も違う職人たちが同じ場所で同じ未来に向かって楽しくいられる匠宿で、未来につながる挑戦をしていきたいです」(前田さん)

 

広い敷地内で好きな陶芸体験ができる「工房 火と土」の工房長・前田直紀さん

 

匠宿では、伝統を産業につなぐための工夫もあちこちに採り入れられている。
たとえばカフェのカウンターには一枚板の木工を使用し、カウンター上下には伝統工芸品の駿河竹千筋細工でできたLEDパネルが、カウンター上には駿河竹千筋細工でつくった照明器具、お茶染の暖簾が飾られている。
「伝統工芸を建築資材に使っていくことができれば、産業になります。需要が増えれば技術もさらに向上していきますし、ビジネスになれば後継者も入ってくる。ここを拠点に、伝統工芸が循環するしくみを構築していきたい」と山梨さんは夢を語る。

 

泉ヶ谷産のハチミツや地元食材を使用したメニューを提供するカフェ「HACHI&MITSU」

 

静岡を代表する伝統工芸品・駿河竹千筋細工のランプ

 

「風呂敷を広げれば広げるだけ、夢を共有する仲間が増える。この夢に賛同してくれた大好きな仲間たちとこの先の100年も伝統工芸を残していくために、静岡の伝統工芸の適正価格にも取り組みたい。やりたいことはまだまだあります」(山梨さん)

匠宿のある場所は、東海道五十三次の20番目・鞠子宿にあたる。職人を集め、里山工芸観光で鞠子宿の活気を取り戻すことで、創造舎の本社のある府中宿とつなぎ、東海道筋をさらに元気にできるだろう。

徳川家康が夢見た伝統工芸文化は、この先も確かに続いていく。

 

駿府の工房 匠宿
〒421-0103 静岡県静岡市駿河区丸子 3240-1
https://takumishuku.jp

デザインオフィス創造舎
https://sozosya.co.jp/

[by 相澤洋美]


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