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絶滅危惧の素材と道具 いま起こっていることシンポジウム

絶滅危惧の素材と道具
いま起こっていることシンポジウム

2017年11月17日(金) @ 石川県立美術館・講義室

21世紀鷹峯フォーラム石川・金沢で、2017年11月17日に「絶滅危惧の素材と道具 いま起こっていることシンポジウム」が金沢市の石川県立美術館・ホールで開催されました。
ものづくりに欠かせない素材や道具の中には、近い将来枯渇が懸念されているものがあります。この活動では今まで、連携規模を広げながら、現代に無理のないエコシステムの構築を目指す研究会や、絶滅が懸念される素材や道具リストの集約、さらにこの分野で活路を拓こうと活躍する方を紹介する「NEXT100年」を開催してきました。
第2部構成で行われた今回のシンポジウム。第1部では、研磨炭の中でも、もっとも柔らかい駿河炭をつくるただ一人の生産者である木戸口武夫氏を招き、研磨炭を取り巻く課題において、「今、私たちにできることは何か?」が話し合われました。
そして、第2部では「100年後のために、小さくていいので『循環系』をつくることができないだろうか」をテーマに、これらの取り組みについての解説を行いました。

→イベント詳細 http://takagamine.jp/event/5951

第1部 木戸口武夫さんの研磨炭

研磨炭とは、蒔絵を描いた後などに、表面を研ぎ、艶を出すために使う道具です。現在、漆芸作品などの研磨炭4種類を製炭するつくり手は、名田庄総合木炭の木戸口武夫氏のみとなっています。この研磨炭、特にアブラギリからつくられる駿河炭を取り巻く課題が取り上げられました。問題点としては、次の4つが挙げられます。
①「材料の確保」
②「工程をアウトソーシングに見合う『価格』にできない」
③「研磨炭づくりの技術はどうつなげればいいのか=どう後継者が生計をたてられるようにするか」
④「若いアブラギリ群生地をどう切らずに守って、30年後に送るか」

この問題点に対して、木戸口氏が研磨炭に関する現状や課題を語り、「私たちに何ができるか」を話し合いました。まず、「材料の確保」の点に関して、木戸口氏は駿河炭の原料となるアブラギリを切り出す様子を映像で説明しました。今回、アブラギリを切り出したのは、林道から約200メートル下の急な場所です。切り出す業者もいないため、自分で選木し、山に入り、伐採し、外に出すという非常に危険な作業が伴うことが報告されました。

さらに、会場では家庭用研磨炭が配られました。これは、IH調理器の天板や車についた虫の汚れなどを落とすために使用する目的で、木戸口氏が試作したものです。このような製炭の販売、そして外部委託についての質問がありました。木戸口氏は「現在、製炭の売り上げは、燃料炭と研磨炭が半々。外部委託については、燃料炭も一緒に製炭しながらでないと、生活できる収入を得ることができない」と現状を語りました。

これは直接、「後継者」に直結する問題です。「後継者は、経験を積んでもらうのが大事です。後継者はしっかりと製炭をベースにして、生活ができるようにする。その上で、研磨炭をきちんと自分の技術にすることが大切です」と木戸口氏は語りました。
「海外への販路」では、「国際的な販路」については、「まず日本の消費者が研磨炭の良さをわからないといけない」と、このプロジェクトのモデレーターである京都造形芸術大学の青木芳昭教授の言葉が紹介されました。そして、木戸口氏から駿河炭の高級な研磨炭が最近、中国からの注文が入ってくるようになったとの話がありました。
また、2015年度、アブラギリによる研磨炭の製炭技術が林業遺産になり、その際に、福井県知事から「地元のアブラギリで駿河炭をつくってほしい」と要望があったと木戸口氏は言います。そして、「今まで入れなかった山の中を調査すると、アブラギリがたくさんあり、駿河炭の特級品は今後もつくり続けていける予定が立っている」との明るい話題も出てきました。

そして、西村松逸氏による炭研ぎの実演が行われました。まずは、駿河炭がやわらかく、形になじみやすいので、とても扱いやすい研磨炭であることを説明。

そして、「平面を研ぐ際は、できるだけ大きい炭を使い、精度の高い平面をつくります。手に返ってくる感触と音を聞きながらどのくらい研げているのかを判断します」と実際に研磨炭を使い、盆の炭研ぎを披露しました。

第2部 100年後のために、小さくていいので「循環系」をつくることができないだろうか

第2部では、「100年後のために、小さくていいので「循環系」をつくることができないだろうか」をテーマに、「工芸で話そう」というフレーズの説明を行いました。
過去、「絶滅危惧の素材と道具」の活動では、「なぜ横断的な活動を始める必要があったか」「工芸で話そう」「違いのわかる社会をつくる教育」「各地に『工芸伝承士』システム」「害獣キョンの工芸での活用」「一時仮置きのスペースの必要性」をテーマにさまざまな議論を重ねてきました。

一般社団法人ザ・クリエイション・オブ・ジャパン常務理事の坂井基樹氏が「素材だけでなく、すべて丁寧に仕事をするという部分で、食は技術が上がってきています。工芸もいい意味で、うるさいお客さんたちがいっぱいいる社会になれば、つくる方もブラッシュアップしていくのではないか」という思いを語りました。そのために、「工芸で話そう」というフレーズを使い、子どもから大人まで工芸に親しみ、工芸のさまざまものをわかってもらえるお客さんを増やそうと、「違いのわかる社会をつくる」を共通のキーワードにしていると説明がありました。
また、この活動の中での重要なテーマである「循環系をつくる」。小さな循環系を使い手、つくり手、つなぎ手、そして買い手をつくっていくための活動として、1年前に「絶滅危惧の素材と道具『NEXT100年』」を行ったことを紹介。来年、第2回のイベントでは、さまざまな共同の中で、何か仕組みができないかということも探っていくという展望が語られました。
そして最後に、金沢卯辰山工芸工房から木戸口武夫氏への感謝と、西村松逸氏(漆芸家/金沢漆芸会会長)から三代続く加賀蒔絵での研磨炭への思い、そして駿河炭をつくる木戸口氏への感謝のメッセージが読まれました。