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グローバリゼーションと工芸

連続シンポジウム「グローバリゼーションと工芸」

2017年10月20日(金)〜22日(日) @ 石川県立美術館/本多の森ホール

「工芸の国際化に必要なことを知る」というテーマのもと、10月20日から3日間にわたる連続シンポジウムが開催されました。モデレータは、秋元雄史東京藝術大学大学美術館 館長・教授/金沢21世紀美術館特任館長。

→イベント詳細 http://takagamine.jp/event/5726

10月20日(金)第1部:工芸における文化政策、文化発信 ─工芸という地域資源を国際的なフィールドで評価、価値付ける─
@ 石川県立美術館

イギリス、韓国、日本および世界の現場で活躍される方々の経験と、その視点から日本の工芸が世界の方々に理解されるために何が必要か、示唆に富む意見が交わされました。

「工芸における文化政策、文化発信」
工芸という地域資源を国際的なフィールドで評価、価値づける

ガイ・ソルター氏(イギリス)がチェアマンとして活動するのは、参加イベント数240、来場者数昨年比3倍という、イギリスで3年目を迎える「ロンドンクラフトウィーク」。自身の活動については、日常的に手にする商品に内在するクラフトマンシップを可視化し、小さな工房や個人に光を当てること、常に世界規模の評価軸を持ち、良質なものづくりを扱う活動であり続けることを重要視していると話し、日本の工芸にも積極的に参加してほしいと呼びかけました。

チョ・ヘヨン氏(韓国)はKCDF(韓国クラフトデザインファウンデーション)のアートディレクターとして、韓国の工芸に関する国内外さまざまな活動のキーパーソンとして広く知られた存在です。韓国内で過剰に細分化されている同時代の工芸について、その分野の活性化、技術の継承、育成、キュレーション、プロモーション、国際的な市場の開発など様々な観点からの活動を同時進行で行なっている現状を紹介しました。

前文化庁長官で、現在は山梨県立美術館館長の青柳正規氏は歴史的観点から、日本の美術と工芸、デザインにおける「創造性」「質」「主題」のバランスの違い、変化について解説の上、それらを切り口に日本と欧米におけるものづくりに関する意識の違い、世界における近年のさらなる工芸再評価の動きを分析しました。
ディスカッションではモデレーターの秋元氏から海外のおふた方に対し、新たな場づくりの中で消費者、来場者の反応や変化について質問がなされ、ソルター氏は地殻変動的に富裕層の意識に変化が見られ、ブランド品志向から、工房へ特注しあつらえる志向などが育っていると述べました。韓国においても、国内外共に工芸の市場における富裕層の重要性は共通点として挙げられました。

つくることに対する熱量に反し、マーケティング等においてはやはり弱い日本の性質について、青柳氏は過去の事例として有名海外ブランドに技術だけでなく、それを元につくられた製品が結果として日本でよく売れることにつながり、マーケットまでも持って行かれた例を紹介。ソルター氏はラクジュアリ・ブランドの典型的な手法について、それが必ず成功する時代は終わっものの、そこからうまく学ぶことも必要だと指摘。

また、会場からの質問に答えた際には、つくり手を支えるためにはつくり手自身が苦手とする部分を補う専門家とのマッチングが重要であるとの意見が3氏それぞれから出されました。

→イベント詳細 http://takagamine.jp/event/5747

10月21日(土)第2部:美術館とギャラリー ─工芸的な価値を創造・発信する─
@ 石川県立美術館

2日目が石川県立美術館で開催されました。NYを拠点としながらも、美術館、ギャラリー、オークション会社という異なる視点から日本の工芸に携わる3氏それぞれの活動についてご紹介いただきました。

現在インデペンデントキュレーターとして活動するロナルド T.ラバコ氏は、2012年に金沢21世紀美術館にて開催された展覧会「工芸未来派」を、当時所属していたMuseum of Arts and Design NY(以後MAD)で2015年にアメリカの鑑賞者に合わせたアレンジをし開催しました。日本の展覧会を他国において開催する際、さまざまな観点で必要となる伝え方のアレンジ、工夫の重要性を具体例を紹介しながら示されました。また、MADがもともと館名に”craft”の名がつけられていましたが、時代の変化とともに言葉による印象が変わり、現在のものになっていった経緯を解説されました。

一穂堂ニューヨークのディレクターを務める青野祥子氏は、さまざまなギャラリーがひしめき合う土地で、日本の工芸を紹介する上で最も重要視すべきことに触れました。ビジュアル的な魅力に留まらずその背景にある日本人特有の季節感や精神性なども含めて伝えることや、プレスリリース、エッセイなどでどのように伝えていくかを常に意識していると。また、日本の工芸を愛するコレクターが生活のなかでどう使っているのかを写真で紹介しました。

ボストン美術館など半世紀近く日本の工芸に携わってきた経験をもち、現在はオークション会社ボンハムズで日本美術部門のシニア・コンサルタントを務めるジョー・アール氏。1980年にV&A Museumで開催された、日本文化を紹介する代表的な展覧会「Japan Style」などを取り上げ、その構成を考える際に「工芸」や「日本」のイメージが、日本人自身による「こうあるべき」という自己オリエンタリズム的な演出によってつくられた部分も大きかったと指摘。2020年に向け「工芸」という言葉がよく使われるようになった現代でも同じことが起きそうであり、名称や既存のイメージにとらわれることなく、新たな観点からの評価、価値づけが必要であると説きました。

3氏の発表を受け、モデレーターの秋元雄史東京藝術大学大学美術館 館長・教授/金沢21世紀美術館特任館長は、現代において新たに生み出され続ける工芸を、よりニュートラルな視点で捉え、個々の作家にフォーカスしていくべきだろうと自身の考えを述べ、2日目を締めくくりました。

→イベント詳細 http://takagamine.jp/event/5802

10月22日(日)第3部:国際展、アートフェア ─工芸の価値と流通の新たなプラットホーム─
@ 本多の森会議室 第一会議室

最終日3日目、あいにくの悪天候の中、多くの方々にお越しいただきました。3日目はイギリス、韓国、日本で大型の国際展やクラフトフェアをオーガナイズする方々をお招きし、各国での動向をご紹介いただきました。

工芸の価値と流通の新たなプラットフォーム

自身の専門は建築でありながら、認定NPO法人趣都金澤の理事長としてここ金沢にてさまざまな工芸にまつわるイベントを企画してきた浦淳氏(日本)は、自身がオーガナイズする金沢21世紀工芸祭、KOGEI Art Fair Kanazawa等について紹介しました。それらが常に地域のシーンづくり、場づくりの視点から立ち上がり、工芸のみならず街並み、食、建築など異分野とのコラボレーションをもって形づくられていることの重要性、またそれが可能な金沢という地域の魅力を説きました。

芸術分野において世界的にも重要な位置付けとされるエディンバラ、その地でスコットランド・クラフト・ビエンナーレの2018年のスタートに向け奔走するディレクター、ティナ・ローズ氏(イギリス・スコットランド)。大量消費、テクノロジーの進化等の影響により色いろな物事の価値観が揺らぐ現代は工芸にとっても重要な時代であり、その定義づけ、価値づけを積極的に行っていかなければならないと説きました。またビエンナーレの開催にあたってはその価値、国際展やアートフェアが持つ既存のイメージと工芸をどうマッチングしていくのか等、多角的な事前調査を入念に行っている現状を紹介しました。

KCDFキュレーターとして国内外で展示、アートフェア、若手の育成など盛りだくさんな活動を展開するパク・ジュンゴン PhD氏(韓国)は、コンバージェンスをキーワードに伝統、素材、テクノロジーなどの観点からつくり手のさらなる可能性を支援する取り組みを紹介しました。若手とベテラン層、つくり手とデザイナー、つくり手と企業とのコラボレーションの機会を提供することが新たな価値を創出するきっかけとなり、またそういったマッチングの機会としても、アートフェアは重要であると説きました。

会場から質問を受ける形で始まったディスカッションでは、一般の人々に対して工芸をどう普及していくのか、という問いに対し、ローズ氏は時間的にも空間的にもある程度大規模なイメージを持つ国際展として工芸を展開する目的の一つに一般への普及があると説きました。また、同時代の工芸が表現に偏っているという指摘に、石川県立美術館館長 嶋崎丞氏から、工芸は本来生活と一体化し、地域文化との関わりの中にあるものであり、新たな価値観の創出と共に、原点回帰の意識も重要であるとのコメントをいただきました。

秋元雅史氏がファシリテートおよびモデレータを務めた3日間のシンポジウムを締めくくりました。

→イベント詳細 http://takagamine.jp/event/5805