Interview

「竹筬(たけおさ)」

小倉央仁(日本竹筬技術保存研究会)

竹筬とは何でしょうか、

織機で使う竹でできた道具です。いまは手織り用で、経糸(たていと)を整えて、緯糸(よこいと)をまっすぐ打ち込むための仕事の道具です。道具なので日の目を見にくいし、注目されないです。

なぜ、竹筬はつくられなくなったのですか

ひとつは、機械生産の金属製の金筬が生まれたことです。動力で動く力織機で織るようなときに金属製の金筬が使われるようになりました。コスト面も下がって競争となり、生産性と耐久性の面で格段の差がありましたので、必然的に金筬に押されて、竹筬は廃業になった方が多かったのです。

金筬と比較して竹筬の良さは?

細かいことですが、ひとつには不規則な太さの糸には金筬よりも竹筬の方に優位性があります。金属の方は硬いので糸がふくらんでもそれに沿って逃げずに糸を削る場合もあります。竹はしなりの度合いが高く、横のしなりで、膨らんだ部分を柔軟に逃がすので、糸の傷になりにくいのです。また、静電気が起きにくいことも優位性です。その他、水分と接しても錆びない、光の反射が少なく、経糸を通すとき目が疲れにくいことなどが挙げられます。

今回の展示を通じて、みなさんにどのようなことを知っていただきたいですか。

ひとつは危機的状況がまだまだ続いているということです。産業的に一度は途絶えた技術を有志の意志で伝承しています。職人の方に伝承をお願いしてはじまった活動です。もとの産業ベースを目指すのはなかなか困難ですし、職人さんが職人さんを育てるよりも相当難しい。復興というのは大変困難な道のりだということですよね。技術的なことは、個人がどれだけ時間を費やせるかどうかです。昔は産業構造が分業の組み合わせで成り立っていたのが、なかのいくつかが崩れることで全体が成り立たなくなりました。自分たちで完成形のものをきちんと得ようとすると、いままで職人さんが1個ずつやっていた分担を統合し、それを全部自分たちでやらないといけないので、職人さんたちがやっていたよりも何倍も技術も知識も時間もいるということで、より復興が困難です。

この活動をはばむものは何でしょうか

時間とお金ですね。専業でやろうとしても、いまは絶対に無理です。技術の習得に時間がかかるのですけれども、専門的にそこだけやっていれば良いわけではなく、前後の活動も自分たちでやらなければいけないので、重点である技術の習得にかける時間も減るという悪循環です。

今後、どのような展開をお考えですか

理想もあるけれども、実現は相当困難だろうというところを前提に活動しなければいけないのかもしれないです。理想を追い求めることはやめてはいけないですけれど、どんどん技術は失われていくというか、保存していくのは難しいので、最低でも次の代に伝えることを念頭に、自分が技術を習得して次の人に教えられる様にしないといけません。つくって対価をもらっていた人が教えるのとは質が全然違いますから、たくさん考えたり、あるいは、疑問に思ったことやたくさんの知識を集めたり、いろいろなところで学んで、昔つくっていた人たちよりも考えて、せめて次の代につなげていこうと思っています。そのうちなんでもできる人が現れるといいなと、スーパーマンの出現を望んでいますが、それはおとぎ話のようで、本気ですけれども確率は低いので。

どうしたら凡人でも伝えられることができるかということはもう少し考えないといけないと思いますね。たくさんの人に、こういうものがあったよ、かつては産業だったよ、技術が高くても産業構造が崩れて、それで飯を食っていくのは難しかったよ、一番技術の必要な部分があくまでも副業の産業だったので、竹筬を組むところは別でしたけれども、筬羽(おさば)を引くところは歩合制で、たくさんひいたらひいただけもらえた。その業態がもう現代にはそぐわないですから。技術は高くても飯は食えないということを知った上で、文化を含めて技術の保存をしなければ、いまよりもひどいことになりますよということをたくさんの人が知っていただければ、なんらかのアクションを引き出せるのではないかと思って、啓蒙活動としていろいろなところに顔をだして、なんらかの織物に関わる、糸に関わる人に話をしていく、それで何かネットワークができるといいなと思っています。それが今日、ここに出てきた理由ですけれども、いま、自分ができることだと思っています。

2016年12月13日、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」にて。

文:いしまるあきこ
写真:大隅圭介