Interview

「日本刺繍針について」

岡田宣世(女子美術大学 名誉教授)

今回の展示を通じて、みなさんにどのようなことを知っていただきたいですか。

すぐれた仕事の影に、手づくりの道具が必要ということです。たとえば、修復や繊細な超絶技巧と言われるような刺繍には布に対して通りのいい、修復の場合は劣化した布に対しては針通りがいいということが条件です。手づくりの針は機械づくりの針とは全く違います。見た目では分かりにくいのですが、使っている人はその違いがすぐわかります。

いまは非常に限られた工房でしかつくっていませんので、全国の必要としている方たちがその工房に集中していますので、なかなか手に入らない状況です。少し調べはじめたら、もしかしたらもう1軒、手打ちの針をつくっているのではという情報が寄せられていますので、それを調べて使うみなさんとのつながりが構築できればと思っていますし、ぜひ、この針をずっとつくり続けていってほしいと思っています。

日本刺繍針の特徴を教えてください

針孔(めど=針の糸を通す穴)が平べったいことが特徴です。糸の通りがよく、布に針を通すときに糸の抵抗が少なく、糸が傷まないので、平らな形が伝統的な針孔のつくり方ですね。機械ではこの細さまではできないですね。それこそ髪の毛が通るか通らないかというような針孔の針です。修復では、細い方から4本くらいの針を使います。一番細い針が、3年くらい手に入らない状況です。

なぜ、こういう活動をされようと思われたのですか。

本当に困っているのです。他にも困っている方があれば協力しあっていけないかと思っています。工房も後継者が育たない状況だということを間接的に聞いていまして、そういうこともバックアップできて、続けていただける力になったらいいなと思っています。

この活動をはばむものは何でしょうか

間接的に伺ったところでは、針はなかなかロスが多く、お商売としてはなかなか成り立ちにくいというところがあるそうです。火を使ったり、ある意味、危険なところがありますし、経済的に成り立たない部分がありますし、それをしてお商売としていくのは難しいそうです。いくらいいものをつくっても、そんなにもたくさんつくれないですし、ほしい人がたくさんいてもさほどの収入にはならないということになれば、なかなか難しいところもあると思うのですね。

今後はどのような展開をお考えですか

できるだけこの技術を後継者に伝えていただきたいので、たった1軒の製針所の方にみなさんの気持ちをお伝えしたいと思います。

2016年12月13日、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」にて。

文:いしまるあきこ
写真:大隅圭介

絶滅危惧の素材と道具 NEXT100年 プレゼンテーション#03 岡田宣世