Interview

「漆刷毛ヘアドネーションプロジェクト」

内海志保(漆刷毛職人)

今回の展示を通じて、みなさんにどのようなことを知っていただきたいですか。

漆刷毛の存在自体と、漆刷毛に人髪が使われているということを知っていただきたいです。「漆刷毛ヘアドネーションプロジェクト」では、美容師さんたちの団体と協力しあって医療用のヘアドネーションに取り組みながら、医療用のヘアウィッグで使えない長さの髪の毛を漆刷毛に活用しています。

ヘアドネーションの呼びかけをすると日本中からいろいろな髪の毛が寄せられるのですが、使えないものもかなり混ざっています。髪をひっぱるとすぐにプチンと切れてしまうものは残念ながら使えません。漆刷毛もウィッグづくりにも、そのままの髪を使うわけではなく、まずは下処理をするのですが、弱い髪の毛は下処理の段階でダメになってしまうのですよ。下処理というのは、ある程度、髪のキューティクルをとってあげる処理です。ウィッグは根本で髪を1本1本結んでいくので、元気な髪だと結び目がほどけてしまうのです。薬品で処理をして、表面の元気なキューティクルを取ってウィッグに加工できる髪の毛にしているそうです。

漆刷毛の場合も同様で、元気なキューティクルがついたままだと毛が硬すぎて、塗る漆をしごいてしまうほどです。塩素でキューティクルを弱めたり、紫外線に長期間あてたり、「灰もみ」をしたりといったいろいろな方法があるのですけれども、弱い髪の毛だと処理でブチブチになってしまいます。元が強い髪の毛ではないと処理に耐えられないのです。

ご提供いただくのは大変うれしいのですけれども、みなさん健康な生活を送っていただいて、健康な髪をご提供いただきたいと思っています。ちゃんといいものを食べて元気な髪の毛にしてくださいって思います。漆の仕事をしているので、漆器を使って、和食を食べることまで広めていけたらいいなと思っています。伝統工芸と医療用のウィッグを広めていけたらと思っています。

どうしてこのような活動をするようになったのですか

いま、人毛の入手は中国からの輸入に頼っています。昔は日本髪を結う人がいて、長い髪の人がたくさんいたので、髪の毛を扱うカツラの市場がありました。しかし戦後日本髪を結うような人がいなくなると、大変な作業は中国とか東南アジアの方に移ってしまいました。日本に大きなカツラを扱う企業が数社ありますが、工場はそちらのほうに移転しているようです。中国では市場が大きくなって、長さも質もそろえて売っていますが、日本の市場はゼロになってしまいました。

伝統工芸の道具なのに、材料は全部輸入に頼るというのも悲しいなと思うようになって、せっかく医療用のヘアウィッグの活動もあるので、一緒に活動して、日本でも髪の毛を集められるようなシステムを取り戻したいということで呼びかけを始めました。毛の長さを揃えるのは少し大変ですが。

漆刷毛の使いはじめは、どうして穂先が硬く固まっているのですか

ノリと漆をまぜたもので固めています。漆塗りの職人さんは刷毛に漆を含ませて塗るわけですから、毛細管現象で漆が毛を伝ってどんどんあがってきて漆だけで刷毛のなかの毛が固まってしまうと、二度とほぐせなくなります。ノリを緩衝材として入れて、ほぐそうとすれば叩いてほぐせるように固めておけば、なかまで染みることなく使い続けられます。

また、漆刷毛は穂先が荒れてきても鉛筆みたいに切り出して短くなるまで使えます。塗っているときに毛が抜けてくると困るので、毛が柄のおしりまで長々と入っているのです。先だけ毛が入っているようなものだと抜け毛が出ますから。ただし、弱い毛だと塗っているときにブチブチになるので、長くて強い毛が条件なのです。

この活動をはばむものは何でしょうか

この活動自体をやっても、漆刷毛を利用できる場がないとつくってもしょうがないじゃないですか。そこがどうしようかなというところですね。この刷毛が他のどんなことに使えるだろうかと考えています。

だんだん需要が減る一方なので。つくっているのは、私の所ふくめて国内には3軒です。しかしそれで足りるのですね。なくなったら困るけれど、そんなに需要があるわけでもない。漆刷毛としての用途がもっと増えればうれしいですけれど、他にも用途が見つかればさらに面白い活動もしていけそうだと思っています。

今後はどのような展開をお考えですか

私は2016年12月に東京の親方のもとを独立し、地元の会津で作業をはじめたばかりです。東京はたくさんの人とのつながりがある素晴らしい環境ですが、地元に帰ってやることにも大きな意味があると思っています。会津は漆器の産地でもあるので、教育機関とかも巻き込んでいきたいと考えています。

たとえば、高校1年生から3年生までの3年間で必要な髪の毛の長さになるので、高校生のみなさんに「髪を伸ばしてみませんか?」と呼びかけたりしてみたいです。そのような活動を通じて、伝統工芸に興味がでてくる子もいるかもしれないし、まず、若い世代のうちに知ってもらいたいのです。高校生は勉強が大変なときですが、人によっては地元のことを知る最後のチャンスでもあります。地元の伝統工芸のことを知らずに高校を卒業して大学で他県に行ってしまう子が多いので、中学生、高校生の時期に知ってもらう機会をつくれたらなと思っています。地元の職人さんとも連携して何かやってみたいです。

2016年12月13日、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」にて。

文:いしまるあきこ
写真:大隅圭介

絶滅危惧の素材と道具 NEXT100年 プレゼンテーション#05 内海志保