Interview

「丹波漆」

山内耕祐(若手漆掻き職人・NPO法人丹波漆 理事)

今回の展示を通じて、みなさんにどのようなことを知っていただきたいですか。

丹波漆の現状を知っていただきたいと思っています。私が漆掻き職人の見習いとして入ったのが4年前です。2016年の4月には若い女の子が漆掻きの弟子として入りまして、後継者の育成も徐々に進めているところです。

漆掻きはウルシの木から漆を掻くので、漆を掻くためにはウルシの木が植わっていないといけないわけです。そのウルシの木が丹波では大変不足していまして、ウルシの木を植えて育てることが、漆掻きの技術を継承することや漆の生産を続けていくために必要なことになっています。ウルシの植栽と生育の管理をいまもっとも力を入れて取り組んでいるところです。

1本の木を育てるには、10年から15年の期間が必要です。その間、継続した管理が必要ですので、たくさんのコストも労力もかかります。木を植えてから漆を生産するまでの10年から15年の間は植栽の結果は得られないので、その間のコストをどうするのか、若い人が関わるのであれば、人件費や生活の糧はどうすればいいのかと悩んでいます。

現在はNPOという形をとっていて、いろいろなところから補助金やご寄付をいただいてなんとかやっているところですが、そうでもしないとウルシを植えて掻くということができないという現状になっています。その現状を知っていただいて、ご支援いただきたいのです。そういった支援に対して、最終的には漆でお返ししたいなという気持ちをもっていますので、なんとか活動を続けるために知っていただきたいと思っています。

山内さんはどうして漆掻き職人になられたのですか?

高校、大学で漆芸の作品づくりの勉強をしていたので、漆はいいなと思っていました。漆は自然の木の樹液からできたもので、植える人がいて、掻く人がいて、それを精製する人がいて、それを丁寧に塗って器をつくる人がいて、使う人がいるといった一連のサイクルに魅力を感じていました。

いまは中国産の漆が多く流通しているので、漆を掻き、漆をつくるのは中国の人にお願いしている状態ですが、漆のサイクルを日本からなくすのはもったいないと思うようになりまして、自分たちの場所でもしていく必要があるだろうと、漆掻きをやってみたいと弟子入りしました。

この活動を通じて解決したいことは何でしょうか

活動の源泉はみなさんの寄付です。サポーター会員は3000円、賛助会員は1万円といったいろいろな種類の会員があるのですが、少しずつでもご寄付をいただくことが、直接、ウルシを育てることにつながっていますし、それが原動力になっていますので、ぜひご協力いただきたいです。

また、ぜひ一度、丹波の方へ足を運んでいただいて、漆掻きってこういう風にやるのかとか、ウルシを育てるのにこんなに大変なのだという背景を知って、実際に見ていただきたいなと思っています。

この活動をはばむものは何でしょうか

はばむものはいろいろとありますね。漆掻きを志す若者が、漆掻きだけで生活できないということが一番はばんでいることかと思います。兼業で別の食い扶持をもって、漆掻きの収入は補助的なものにとどまっています。はばまれているというよりは、そういう現状に陥っています。そこを解決することが我々の仕事です。

山は鹿や猪といった獣害にさらされています。樹皮をめくられ、新芽をもぎとられ食べられてしまうので、ウルシが枯れてしまいます。それを防ぐために、植えるときには高さ1.8mのフェンスで囲って、獣が絶対に入らないようにします。獣害によってコストが大きくなっています。

漆掻きはどのように行うのですか

漆掻きは、6月頭に始まって、その年の10月はじめくらいまで継続して行い、1シーズン終わるとその木を切ってしまいます。漆を採るために少しずつ樹皮に傷を入れていくのですけれども、10月になる頃には傷だらけになっていて、傷を入れるところがなくなり、その状態では漆を掻けなくなります。放っておけば傷は埋まりますが、傷が埋まるまで10年以上かかるのです。そうであれば根本から切って、株からでてくる新芽の蘖(ひこばえ)を育てるほうが効率が良いということで切り倒しています。「殺し掻き」という方法ですが、日本では主流のやり方です。掻いて、切り倒して出てきた新芽を育てるサイクルです。掻きっぱなし、切りっぱなしではないので、継続的な管理をしないと漆掻きはできません。

1年で木を切り倒してしまうのですが、シーズンの6月から10月までは木が死なないように、生かさず殺さずの絶妙なバランスで傷を付けていきます。あまり傷が大きすぎると途中で枯れてしまって漆が採れなくなってしまいますし、逆に傷が小さすぎても漆は全然採れないのです。そういうバランスを取りながら、1シーズンの状況をみながら漆を掻いていきますね

今後どのような展開をお考えですか

現在進めている、植栽されたウルシの管理を着実に進めていって、管理しているウルシの木を増やし、掻けるウルシの木を増やしていきたいです。安定的に漆を生産できるようになると、若手の漆掻きの仕事を確保できます。最終的には、いろいろなニーズに合わせて増産をしていくことが今後の目標です。

2016年12月13日、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」にて。

文:いしまるあきこ
写真:大隅圭介

絶滅危惧の素材と道具 NEXT100年 プレゼンテーション#07 山内耕祐