Interview

「選木から製炭まで、技術が命 研磨炭」

木戸口武夫(製炭師、名田庄総合木炭)

研磨炭(けんまたん)はどのように使うものですか?

用途により何種類かの研磨炭がありますが、特に漆の研ぎ作業で使う炭で、「駿河炭(するがずみ)」という漆を磨くための作業に使う特殊な炭を私がつくっています。

サンドペーパーや砥石は線の磨きといわれていて素材に傷をつける事により磨きます。炭の場合は面の磨きといって、サッとかけると面で取れて平らになります。金属を磨くときにも使われていて、真ちゅう、アルミ、銅の磨きでも使います。昔は特殊な用途で金属を炭で磨いていたことは隠されていたみたいですね。企業秘密だったのでしょうね。

今回の展示を通じて、みなさんにどのようなことを知っていただきたいですか。

研磨炭について知っていただきたいということと、特に駿河炭の原木が日本油桐(にほんあぶらぎり)という木で、150年ほど前から漆の磨きにいい木だと言われてきましたが、その良質原木がなくなってきた現状をみなさんに知っていただきたいと思っています。

日本油桐はロウソクの代わり(灯明)にする油がとれる実がなる木ですから、昔は多くの場所で植林されていました。昭和40年代から電気やガスや原油を使うようになり、この木が植えられなくなりました。種から成長する木で、30〜40年前の種も土のなかで生きているので、山を削ったり、杉の林を切ると、いまでも自然と生えるのです。

いま生えている日本油桐は樹齢20年までの木が多いです。年輪を使って磨くものですから、樹齢は最低でも50年はほしいのです。いま生えている木も、あと30年以上は待たないと使える木にならないですから、それまでは、山のなかに入って古い木を探しだして、山から運び出して、炭を焼いているのが現状です。

この活動をはばむものは何ですか?

私がいる福井県では、県の方と一緒に広く原木を探したり守ったりという活動をしています。群生地を探して、そこを保護しないといけないですが、山主さんのこともありますし、30年以上先のことなのでどうなるかわからないです。

製炭技術も普通の炭焼きとは違いますので、それもまた誰かが習わないといけないです。単に日本油桐を炭にしたら駿河炭になるわけではないのです。炭化材料が1種類ですし、焼き方も特殊です。やり方を覚えたからといってできるわけではないので。火の大きさや煙の出方、木の状況などを見て、焼き方を変えます。焼けたとしても職人さんが喜ぶかどうかもあります。「最近、硬くなってきたよ」とか、「研げないよ」と言われる様な炭はただ大量に焼いていても全然だめですし、納得のいく炭を焼くまでには何十年もかかりますよね。

今後はどのような展開をお考えですか?

いまある日本油桐のなかで20年、30年のものは、私にもし後継者がいたら、それは後継者が使うために残さないといけないです。伐採されないように、どこかに山主さんと契約してもらい残していく。そうやってつないでいかないと枯渇してしまいます。私の代は山に入って探すしかないのです。

50年前まで油をしぼっていた地域であれば日本油桐は生えます。いま、日本油桐が生えていなくても、高速道路がついたとかトンネル工事ができたときに山に生えている木を伐採すると、この原木がでてきます。全国的に動いていただかないといけないと思っています。そうなれば安心して後継者にも技術を伝えることができます。

2016年12月13日、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」にて。

文:いしまるあきこ
写真:大隅圭介

絶滅危惧の素材と道具 NEXT100年 プレゼンテーション#06 木戸口武夫