Interview

「ほんものの顔料」

橋本弘安(女子美術大学 副学長・芸術学部長)

今回の展示を通じて、みなさんにどのようなことを知っていただきたいですか。

世界的にみたら天然顔料は絶滅しかけています。いまの粉砕技術を活かしたら、天然顔料の用途が広がる可能性があるのではと考えて、女子美術大学では型染めやプロダクトといったいろいろなものにナノテクノロジーを活用しています。

単に顔料の土や石を提示するだけではなくて、ナノテクノロジーといういまの技術を活かしています。ナノテクノロジーによって、手のひら大の顔料でも200ナノメートルまで細かくすれば、テニスコート1面くらい塗れるようになるわけです。量産には向かない、使われなくなったものを、復活させる可能性があると思っています。

なぜこの活動をされるようになったのでしょうか。

僕自身は日本画を描いているのですが、30年近く自分自身でつくった顔料で画を描いています。石から粉砕した天然の顔料を使っているので、その流れのなかで考えるようになりました。

合成無機顔料が主流となり、自然のものではなくなっています。世界を見渡してみても、天然物の顔料を誰でも手に入る形で売っているのは日本しかないですから。東京では10軒くらいのお店がありますし、インターネットでも売っていますが、それは世界で見たらまれなことです。

有機顔料と無機顔料でできたものを同じだと思うかもしれないけれども、実は違います。赤なら、どのような赤でいいと思われるかもしれないけれども、その赤は何なのかと考えることでものすごく広がりがあるものもあります。

この活動をはばむものは?

地道にやる以外ないでしょうね。何にはばまれるというのはないと思いますよ。

天然物にこだわり、鉱物の石がきれいだなと思うのは、花がきれいだなという感覚をいまでももっていることと同じようなものです。タブレットで描いた画とか、精細なテレビで再現しているものが、本当に再現できているのかということです。テレビの走査線を見て、それでオーケーな世界なのか。それを問いかけているところもあるわけです。近代以降そういう感覚が希薄になっていますので、そういう意味でもこの活動にはおもしろさがあるのではないかと思っています。

今後どのような展開をお考えですか?

さまざまな形で製品にしてみようと思っていますね。

富士山の溶岩を粉砕して釉薬にした器は、富士山を触っていることにほかならないわけです。富士山にお酒をそそいで飲むことになる。富士山も世界遺産になりましたし、国立公園ですから、通常は溶岩も持ち出しにくいものですが、富士宮市にある奇石博物館に協力してもらい、研究材料としてできました。

天然鉱物の貴重なものだけではなくて、さまざまな鉱物をナノテクノロジーが活かしてくれると思っています。

2016年12月13日、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」にて。

文:いしまるあきこ
写真:大隅圭介

絶滅危惧の素材と道具 NEXT100年 プレゼンテーション#02 橋本弘安