Interview

嶋崎丞(石川県立美術館 館長)

2017年、21世紀鷹峯フォーラムは、金沢にて開催されます。伝統工芸が盛んな金沢では、金沢漆器、九谷焼、加賀友禅、加賀繍、金沢仏壇、金沢箔などの国指定伝統的工芸品が、多くの技術者によって受け継がれてきています。
石川県立美術館の館長であり、第3回の金沢実行委員会の会長を務める嶋崎(しまさき)(すすむ)さんに、お話を伺いました。

shimazaki_02工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

毎年秋に公開される正倉院宝物があります。私はこれらが工芸の原点だと思います。今年の正倉院展も実に見事でした。すべてつかうための工芸品です。

たとえば現代の工芸家がつくるもののなかに、欲しくなる、買いたくなる、使いたくなる、そういう気分をおこす魅力ある工芸品が少なすぎます。しかし、正倉院の宝物は、いま見ても古びない、圧倒的な美しさがあります。

いまの工芸の課題について、どのようにお考えでしょうか。

自分の世界だけで考える、近視的な工芸のものづくりがいかに多いかということでしょうね。せっかく「つかい手」がいるのだから、間口を広げて世界観を共有できことが、工芸のよさだと思うのです。

たとえば着物にしても、漠然と訪問着をつくるのではなく、「こういう人に着せたい」というはっきりした印象をもつことが大切です。この意図をもち続けることが、10年後、100年後の工芸に、つながっていくと思うのです。

生活のなかでつかわれ、さらなる美しさを求め、技術が生まれ、発展していく。すべてが表裏一体です。現代の作家には伝統をよく見て、それを咀嚼しながら、今日のものづくりにどう生かせるのか、考えるものづくりをやってほしいと思いますね。

shimazaki_0121世紀鷹峯フォーラムに期待することは、どのようなことですか。

みなさんが集まって、ワイワイ、ガヤガヤ議論しながら、ものづくりをしている。加賀藩の細工所の職人たちもそうでした。みんなが集まって意見を出し合う。そういうところから、いいものは生まれてきます。

正倉院のものづくりだって、おそらくそうだったのではないでしょうか。中国の唐の文化を規範に、いや、ここはそうすべきだ、ああすべきだと議論し、想像を重ね、技術を駆使し、ものづくりを完成させていった。そういうことが、現代にも欠くことできない。ひとりよがりの考えだけでは、工芸は進歩しないと思います。

戦後の現代美術を規範にするのではなく、伝統を意識する。そして伝統に足をひっぱられるのではなく、伝統をいかに更新していけるかが、工芸のものづくりに大切だと思います。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/