Interview

土屋順紀(染織家、重要無形文化財保持者)

染織家の土屋順紀(よしのり)さんは、日本の伝統的な「紋紗(もんしゃ)」という技術を極め、人間国宝に認定されました。糸は植物から染めたもの。専用の機を使い、一反折るのに長い時間を費やします。
土屋さんは京都の美術学校を卒業後、染織家で同じく人間国宝の志村ふくみさんに弟子入りしました。材料や道具の問題、人材育成など、現代における工芸の課題について、お話を伺いました。

tsuchiya_yoshinori_01日本の工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

大変身近なものだと思います。絵画や彫刻というものは、鑑賞する対象ですが、たとば、私の従事する染織の世界ですと、作品は身につけるものです。使えるもの、手に触れられるものというのが、工芸の一番の魅力だと思います。

染織を含めて、日本の工芸にとっての課題はどのようなことでしょうか。

工芸全般にいえることですが、材料、そして道具づくりに携わっている方々が、どんどん辞めて行かれる。産業として成り立っていないからでしょう。しかし材料や道具がなければ、ものづくりは存続できない。危惧すべきことだと思います。若い方々が興味をもって、携わっていける世界なのか。また、そういう方々が生活できるだけの経済的基盤が構築できるのか。そこが大きな問題だと思います。

同様のことが、工芸のつくり手にもあてはまりそうですね。

若い感覚でものをつくり、作品を完成させて、発表する場があって、お客さんが魅せられて、人々の生活に受け入れられていく。つかい手の手に渡るまでに、いろいろな要素が必要ですが、さらに染織は、そこに至るまでに時間がかかる。一反つくるのも大変ですし、ある程度の修行を経て技術を習得しなければ、完成度が上げられない。

感覚を頼りに完成度を得られる工芸もありますが、染織はそういうわけにはいかなくて、特に織物に関しては、高い技術をもったうえで、自分の感性をどう入れていくか、というレベルに達するまで時間を要します。現代という時代は、若い人たちが生活と折り合いをつけながら、自己鍛錬していくこと自体に、いろいろな意味で難しさがあるように感じます。

早い時間の流れと経済的合理性が、工芸と乖離しているのでしょうか。

私たちは、どうにか凌いできましたが、この先の世代のことを考えると、本当に大丈夫なのかな?と心配の方が先立ちます。具体的にいうと、着物を着る人が少なくなったことが大きい。それでも私たちは、志村先生の紬の時代があって、それに心から憧れて、ものをつくろうというモチベーションを抱き続けることができました。けれども、いま、若い人たちがそういう気持ちになれるのかという点は、私たちの責任でもありますが、時代的にどうなのだろうか、という危機感があります。

21世紀鷹峯フォーラムに期待していることはありますか。

昨年の京都会議の宣言で、「よき使い手とよき鑑賞者を生みだす」「よいものをつくり続けるための支援」「国内外の現代の生活の中に工芸が行き渡るために」という3つの課題が浮かび上がりました。ものをつくる人間にとって、一番大切なことだと思います。

それを深めるためにも、昨年は京都、今年は東京、来年は金沢で開催されますが、全国には素晴らしい工芸の産地がたくさんあります。この3都市に限定せず、それぞれの地域の魅力を浮き彫りにしつつ、各地で多くのお客様に感動してもらえる環境づくりができるといいと感じています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/