「絶滅危惧の素材と道具」プロジェクトでは、絶滅しつつある工芸の素材や道具の問題に向き合っています。今年、2回目となるテーマは「NEXT100年」。課題解決に向けて努力する「ひと」、優れた取り組みを推進する「機関」、次世代に伝えたい「ほんもの」素材を紹介します。
中里さんは、伝統工芸の盛んな京都にて、繊細な技術を支える筆や刷毛の製造・卸売・販売を担っています。人材や素材が不足するなか、筆や刷毛づくりの新しいサイクルを考える、その取り組みについてお聞きしました。
昨年、1回目の「絶滅危惧の素材と道具」のプロジェクトが終わってから、何か動きはございましたか。
「筆のよい材料がどんどん減っている」というネガティブな噂ばかりが入ってくる状態で、実際に、自分の眼で見ているかといえば、そうではない。足元が見えていない状況は、よくないと思い、今年の夏、筆や刷毛の職人たちと一緒に、中国の現場に出かけました。
現場はどのような状況だったのでしょう。
具体的には、イタチの尻尾と、山羊毛の2つの現場に足を運びました。まずイタチについては残念ながら、気候の変化と、衣料としての毛皮の需要が低下していることが原因で、採れる量、とりわけ大きなサイズのものが減っているのが現状でした。
山羊の毛に関しては、食肉としての需要が高いことから、筆や刷毛に使う分量であれば、量についてはまったく問題がないが、質は年々悪くなる。また、中国でも高齢化が進み、職人不足が深刻で、いままでのように、よいものと悪いものの選別、さらによいなかでも上等なものを見分ける作業が、非常に難しくなっている現状が、如実に分かってきました。
そのような状況下、どのような指針で道具を提案していこうと思われていますか。
メーカーがモノを開発し、「これがいい」と宣伝するような時代は終わったというのが正直なところです。使い手が何を求めて、それに対して、メーカーがどう答えられるかが、これからの課題です。もともと筆は、使い手が望む形を、職人がつくってきた伝統があり、それに立ち戻るのが正しい形かもしれない、と最近よく思います。
国内の問題点について、お聞かせください。
筆づくりは、素材がなければ成り立ちません。毛皮の業界が下火になれば、原毛も手に入らなくなる。素材が生まれる現場から、すべてが一体化して循環しないと、筆づくりも立ち行かなくなる。自分たちだけの問題ではないのです。
日本には筆をつくる会社は何十社かあるけれど、職人が高齢化しており、今後、国内でつくり続けられるかどうかが、大きな問題になっています。新しい人を入れたいけれど、つくる量が増えたところで、買い手も増えるのか……、未来も予想しづらい。
需要のあるところにきめ細かい供給を行い、新しい職人を育てられる循環をつくるのが、目下の目標です。
21世紀鷹峯フォーラムに期待することは、どのようなことでしょうか。
ふだん、接点のない者同士が、上手く接点をもつことにより、「これは無理だ」と思い込んでいたことができるようになる。そういうネットワークが育っていくことが、一番の魅力だと思っています。
2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。
2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告会が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ
2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。
文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/