Interview

中台澄之(株式会社ナカダイ 常務取締役)

「絶滅危惧の素材と道具」プロジェクトでは、絶滅しつつある工芸の素材や道具の問題に向き合っています。今年、2回目となるテーマは「NEXT100年」。課題解決に向けて努力する「ひと」、優れた取り組みを推進する「機関」、次世代に伝えたい「ほんもの」素材を紹介します。
中台さんは、廃棄物の処理、分類解体から再利用までの事業を仕事としており、このプロジェクトに、新たな発想や提案を投げかけています。人とモノとの対峙の仕方について、深い話が飛び出しました。

中台さんは「100年後の工芸のために」必要なことは「思考の転換」であると、つねづねおっしゃっていますね。

「工芸の技術が100年後に残るか」という課題は、「現代の技術が100年後に残るか」というのと、実は同じことだと思っています。

たとえば、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでも、イベントのために、モノをつくって形にして、終わったら廃棄する。捨てたモノを次の段階でどう活かせるのかという問題は、そもそも考えない。やることが目的で、それ以降のことは知らないというのが、いまや普通のことになっています。

「使い捨ての時代」といわれて幾久しいですね。

nakadai_01しかし現代でも、つぎにつなぐことを前提にモノつくることは可能で、そのことに私たちは知恵をもっとつかうべきだと思っています。それは普段のビジネスでも工芸でも同じことで、工芸という言葉を「資源」「環境」「技術」に置き換えることもできますね。「100年後の資源」「100年後の環境」「100年後の技術」……。問題は同根です。

「100年後に○○を残すならどこから?」という問いに対しては、お互いが気持ちよく、ちゃんとつぎのつかい手のことを考えているかどうか。もしくは他人の生活が豊かになることを想定して動いているかどうか。この一点だと思います。そういう思考をつくってあげることが、私は大事だと思う。

具体的にはどのような取り組みを考えていらっしゃるのでしょうか。

自分の会社には「モノ:ファクトリー」を称して廃棄物を解体する過程を見学したり、分別したパーツを素材として展示販売する「マテリアルライブラリー」を併設した施設があります。そこでは使い手の想像力が刺激され、モノに対する意識が大きく変わるようです。

それと同じように、工芸を含めた技術やそこに宿る思想などが一同に会する博物館のようなもの、技術だけでなく、そのものがどんな気持ちでつくられたものなのか、時代の背景も含めて感じられる場や機会をつくっていきたいと思っています。

どのように、モノに対する意識が変わるのでしょう。

子どもの教育も同じですが、「エコロジーについてもっと考えましょう」といったところで、ピンとこない。なぜ、そのようなモノが生まれたのか、廃(すた)れて廃棄されるに至ったのか。モノの流れと社会の仕組みを、ちゃんと教えてあげると、「エコロジーのためにやらないといけない」という標語めいたことではなくて、もっと身近な場面で、モノとの対峙の仕方が変わってくると思います。

工芸品も、「使い捨て社会」の対象である大量生産品でも、モノに宿っている技術は一緒です。そして、暮らしをより便利にしたい、人の生活を豊かにしたいという、つくり手の思いは同じはずです。

個人個人のモノとの対峙の仕方が問題だということですね。

いまはウェブサイトで注文すれば、ダンボールに包まれた商品が玄関に届くから、見えにくいけれども、工芸品でも工業製品でも、どんな苦労を重ねてつくられたのか、製造方法はどんなものか、つくり手の気持ち……。モノに宿った人の知恵とぬくもりに、つねに想像力を働かせてみる。そんな価値観を誰もがもつようになれば、工芸をとりまく状況も大きく変わってくると思うのです。

2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/