Interview

柳原正樹(京都国立近代美術館 館長)

京都国立近代美術館は、前回、2015年の21世紀鷹峯フォーラムの開催において、京都実行委員会の中核的な役割を担いました。2016年の第2回は、世田谷美術館で開催される、志村ふくみ─母衣(ぼろ)への回帰の展覧会の主催を務めています。
京都国立近代美術館の館長であり、昨年度の京都実行委員会の会長を務めた柳原正樹さんに、お話を伺いました。

yanagihara_01工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

「工芸的」という言葉がありますね。この言葉は、完成度の高さを示しています。「この作品は工芸的だね」といった場合、すみずみまで完全に神経を行き届かせたものづくりを表現しています。それが、多くの人々と共有できている、工芸の魅力ではないでしょうか。逆にいえば、絵画や彫刻は、「工芸的」である必要はかならずしもないけれども、工芸は「工芸的」でなければならないのかもしれません。

いまの工芸の課題について、どのようにお考えでしょうか。

現代に通用する工芸をどうつくり上げるか。たとえば伝統だけを重んじた工芸品は昔っぽくなり、現代の暮らしには受け入れられにくい。いかに現代風に蘇らせることができるか、それが課題であるという気がしますね。

21世紀鷹峯フォーラムに期待することは、どのようなことですか。

「工芸」という言葉を、私たちは知らず知らずのうちにつかっています。工芸という言葉が生まれたのは明治時代、海外の「クラフト」という言葉を訳したものです。しかし、いま私たちが漠然と「工芸」と呼んでいるものは、もっと古くから日本に脈々と流れてきた、ひとつの「技」の姿です。そこには、もっと深いものが存在しています。

その「技」の姿を総称した「工芸」の考え方を、この21世紀鷹峯フォーラムはつねに発信してほしいですね。「工芸」というのは、陶芸や、漆や、染織や、金工といった、幅広い分野にまたがっているので、そう簡単なことではありません。複雑なことを、複雑なまま受け止め、しかし問題点をきちんと整理して提案していくことが大切だと思います。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年9月10日(土)~10月10日(月)、10月12日(水)~11月6日(日)、世田谷美術館にて、志村ふくみ─母衣(ぼろ)への回帰の展覧会が開かれます。
志村ふくみ―母衣(ぼろ)への回帰

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/