室瀬和美さん(漆芸家、重要無形文化財保持者)インタビュー

漆芸家で人間国宝の室瀬和美さんは、1回目の「絶滅危惧の素材と道具」のシンポジウムに登壇して以来、このプロジェクトに深く関わっています。また、21世紀鷹峯フォーラムの会期中には、各所で作品展示が行われ、門下の作家たちも数多く参加しています。
つねに漆への熱い想いを説き、美しい作品で多くの人々を魅了する室瀬さんに、日本の工芸の魅力について、お話を伺いました。

murose_01日本の工芸の魅力とは、どのようなものだと思われますか。

まず筆頭に挙げられるのは、工芸は材料として自然の素材を使う点だと思います。木も布も紙も金属も、もちろん私が使う漆でも、自然から頂いたものを材料に、私たちの感性と技術を通して作品につなげる。それが日本の工芸の最大の財産なのではないでしょうか。

そして大切に使い、次の世代にまで伝える。そういうエコロジカルな思考のもと、長いスパンで循環させる。時代、また生活の変化によって、表現も変わってきていますが、自然から素材を得て、循環させるという価値観は、ずっと変わらない。これは将来においても、私は変わらないと思っています。

日本の工芸がきちんと後世に伝わるかぎり、人は自然ともずっとつながっていく。逆にいえば、日本の工芸が一番伝えたい、守りたい、表現したい点が、自然の大切さだということです。ですから素材の特性をいかに生かしていくかに、私たちの感性、技術が問われています。

工芸と表現は、どんな関係にあるのでしょう。

20世紀は、ある意味「自己表現の世紀」だったといえるでしょう。ものづくりは多かれ少なかれ、自己の感性の表現なのですが、その表現が20世紀になると加速して、自己表現自体がアートだというふうになってきた。そこでは他人のことをあまり考える余地はありませんでした。

ところが工芸というのは、考えたことを相手に伝え、喜んでもらえることが大事。工芸作品は、つくり手とつかい手がちゃんとつながるためのコミュニケーションツールです。このことは、21世紀の美として、もっとも重要なことだと感じます。

自己主張と自己主張がぶつかれば、相手を否定しなければならない。しかし、日本の工芸の根底に流れているのは、先人が積み上げてきた表現を否定しない。肯定した上で、新しい表現を構築する。決して先人と同じことはやらない。その工芸制作の姿勢は、21世紀の生き方の指針となるものだと思うからです。

工芸には大きな可能性を感じますね。

このことは、日本のみならず、世界の人に伝えたいですね。決して相手に迎合するのではなく、自分をきちんと伝えて、でも相手と一緒に幸せにならなければ、表現に意味がない。どんなに自己の内面性を表現しているといっても、相手の気分が悪くなってしまったら、工芸は成りたたない。自分のつくったもの、表現によって、相手が心地よくなる。これが工芸の美の原点だと思います。

相手がいて、初めて完成するものなのですね。

つくり手だけでは完成しない。つくり手とつかい手が一体となり、築き上げて初めて完成する。それが、私たちの仕事だと思います。その時代、その時代に、つくり手の感性とつかい手の心が、つねに成長していくのが、工芸なんです。

その価値観や感性が、日本中、そして世界中に広がっていくことが、私が鷹峯フォーラムに期待することです。私もできるだけのことをお手伝いしたいと思っています。

2016年10月22日、21世紀鷹峯フォーラム in 東京「日本工芸Opening Conversation」にて。

2016年12月13日(火)13時から、六本木ヒルズ・ハリウッドプラザ ハリウッドビューティ専門学校・7階教室にて、絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」成果報告会が行われます。
20組のユニークな活動を行っている方々の対話式ブースの出展のほか、16時からは出展者ライトニングトーク・ミニシンポジウムが開かれます。
2017年1月23日(月)10時30分から、国立新美術館にて、絶滅危惧の素材と道具「いま起こっていること 」ミニシンポジウム┼ワークショップが行われます。
絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」@ 六本木ヒルズ

2016年12月14日(水)~2017年1月17日(火)まで、銀座の中長小西にて、「頂点を極めたお椀」室瀬和美 ┼ 目白漆學舎の展覧会が開かれます(ただし12月25日〜1月9日は休廊)。
頂点を極めたお椀 室瀬和美+目白漆學舎 @ 中長小西

文:永峰美佳
写真:蔵プロダクション http://zohpro.com/