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展覧会・イベント、見てある記 #11

第1回修復工房セミナー「文化財を守る ―漆工芸品の保存と修復―」

2017年11月4日(土) 13:30~15:00 @ 石川県立美術館講義室 

中国で作られた一見よく似た漆塗りとラッカー塗装の品を比較
中尊寺金色堂や平等院、海外でも漆芸品の修復監修を多数担当された山崎教授。
截金の欠損が金蒔絵で埋められたのは少々残念だが、大きな縦の亀裂に手を加えられていなかったのは幸い。
クリーニング・修復で本来の色彩が現れ、これだけ美しい姿に。

石川県立美術館の付属施設として1997年に開設された「文化財保存修復工房」が、2016年にリニューアルし、新たに漆工芸品の修復室が設けられました。本セミナーは、漆工芸品における適切な文化財の保存修復について理解を深めるため、また、「21世紀鷹峯フォーラム」の連携企画として開催されました。

講師に、金沢美術工芸大学の山崎剛教授を迎え、博物館・美術館関係者や漆工芸品に関わる職人、修復師から一般市民まで、幅広い方々が熱心に受講していました。

山崎教授は大阪市立博物館(現・大阪歴史博物館)の学芸員、文化庁文化財部美術学芸課文化財調査官などを経て、2003年から金沢美術工芸大学で教鞭をとる一方で、現在も文化庁の文化財保存・修復の監修などにあたられています。山崎教授の個人コレクション、金沢美術工芸大学が所蔵する漆芸品などの実物やスライドを用いた事例紹介が行われました。

漆芸品の修復において最も大切なことは、「素材・状態の見極めであり、基本は何もしないことがベスト」。汚れの除去や修復には最低限しか手を加えないように心がけているということです。特に海外に流出していた作品などは、漆以外の塗料が塗られていたり、種類の異なる貝で螺鈿が補われていたりと、すでに異素材で修復された痕跡やダメージが激しものもあり、それを修復していく工程など、非常に興味深く拝見しました。

漆芸品の修復では、生漆を細かなクラック(ヒビ割れ)の中に含浸させて塗膜面の保護・活性化をするために、摺り漆(漆固め)といわれる技法が使われますが、必ず表面に漆が残らないように拭き取ってオリジナルの塗膜のみにします。漆は一度定着すると除去できないので、既存の塗膜面に新たな漆を重ねないことが何より重要とのお話でした。汚れの除去も精製水を綿棒に染み込ませ、少しずつ落としていきます。強い汚れの場合は、極々微量のエタノールを希釈して使いますが、落ちない場合は、作品を傷めることを避け、決して深追いせず、汚れが残ったままにします。すでに剥離・欠損してしまった部分も、元の姿に復元するのではなく、現状が維持できる状態であればそのままにし、欠落部分も、本体に接着せず、誰が見ても補填していることがわかる姿にする。これが博物館や美術館に収蔵する文化財の修復なのだそうです。

その一方、無形文化財といわれる祭りの曳山や寺院などの建造物の場合は、実際に使用する動態保存が必要で、美術館の収蔵品とは修復方針も変わってきます。特に、「祭りの曳山などは、ハレの日に用いる大切な地域の宝なので、できるだけ美しい状態にしたいと思うが、ユネスコの文化遺産登録などでは、修復による現状変更が行き過ぎると、指定対象から外されることもある」と、課題も提示されました。
セミナーの最後は質疑応答が行われ、山崎教授がお持ちになった漆芸品を実際に手に取って見ることもでき、1時間半があっという間に感じられる充実した内容でした。石川県立美術館では今後もこうした修復工房セミナーを開催していくそうで、第2回目は年明け2018年3月に表具の修復についてのセミナーを計画しているそうです。

展覧会、および資料館の情報は
→ 21世紀鷹峯フォーラム 情報ページ

取材日2017年11月5日