「超絶技巧の工芸」
村田理如氏
今回「私の好きな工芸」で出品して頂くのは、村田さんが支援されている工芸作家さんの超絶技巧の工芸品。特に自在置物のムカデは驚くほど精密で本物と間違えるほどの出来栄えです。
村田理如氏
清水三年坂美術館館長
京都の清水寺近くにある清水三年坂美術館は幕末、明治の金工、七宝、蒔絵、薩摩焼などを常設展示する日本で初めての美術館である。館長の村田理如氏は、子どもの頃から切手や蝶々を集めることが好きだった。ビジネスマンとして世界を駆け巡っていたある日、ニューヨークのマンハッタンで、ショーケースに並んでいた二つの印籠の「繊細で凝縮した美の世界」に衝撃をうけ、以来、幕末・明治の頃の工芸品のコレクターとなられていった。
村田氏が蒐集されているものに共通するのは、細密で美しいことである。細密で美しいものをつくるためには、熟練した確かな技が必要であり、その技を手に入れるために多くの時間を労したことがわかる。村田氏はそういった技を駆使したものを手にした時、「作り手は、どんな顔をして、どんな想いでつくっていたのだろうか」と想像されるという。明治期の職人さんは苦しい生活のなかでも、精巧なものを作ることで、誰かがその技に驚き、また感動することに喜びを見いだしていたにちがいないと言われる。
今回出品して頂いたのは、村田氏が今応援されている作家さんの作品である。印籠は植村健氏作である。氏は江戸時代の印籠を研究され、その製法を再現して作られている。また森田りえ子氏とは京都市芸術大学でバレーボール部の同朋で、その原画を使い現代的な意匠の印籠を作られている。金工パネルはアメリカのジム・ケルソー氏の作品である。ケルソー氏は森林に住み創作活動をされており、その作品にも自然が見事に描かれている。ムカデの自在置物は東京で活躍されている満田晴穂氏の作品で、体節・関節の部分を本物のように動かすことができる。村田氏は、応援されている作家さんの作品を買い上げ、大切にされ、時には自身の美術館で展示されている。こういった支援があってこそ、工芸の作り手さんも安心して良いものを作り出せるのだ。今後このような温かい支援体制を構築し、広げていくことが、日本の工芸の未来にとっては必須であろう。