「19世紀のパリのテーブル」
シャルランリ・ブロソー氏
今回の「私の好きな工芸」に出品して下さる家具の一つは、19世紀パリで流行したというブリッジのためのテーブル。フォーブール・サン・タントワーヌ地区(Le Faubourg St Antoine)の家具職人さんの手によって、美しく21世紀に蘇り、私たちの眼の前に現れてくれます。
シャルランリ・ブロソー氏
在京都フランス総領事
在京都フランス総領事でいらっしゃるシャルランリ・ブロソー氏は、1995 年、東京の立教大学に1年間留学されていて、休みを利用して京都を訪ねられた。六角通柳馬場を東に入った創業百余年の京扇子専門店・山武扇舗で、ある扇子がとても気に入り購入された。大学生の頃であったので、それなりに高額なものであったと思うが、ずっと大切にされ今も使われている。このたび、その扇子を出品して下さった。
また総領事の職に就かれ渡日される直前にパリの職人さんの修理によって美しく蘇った家具も出品して頂くことができた。パリも京都も伝統的な職人さんの技を大切に守ろうとしている街であり、また姉妹都市でもある。
この家具を修理された職人さんは、フォーブール・サン・タントワーヌ地区(Le Faubourg St Antoine)で仕事をされている方である。パリのバスティーユ広場からのフォーブール・サン・タントワーヌ通り(Rue du Faubourg St Antoine)を歩くと、パッサージュというアーケードの小道や路地裏があり、家具工房も多く並び、今なお職人気質が色濃くのこるパリでも数少ない地区である。
肘掛椅子はシャルル10 世時代、フランスで制作されたものだ。
また、ブリッジをするための折りたたみ式テーブルは、ルイ=フィリップの時代のものである。トランプゲームの一つであるブリッジの起源は約五百年前のイギリスに遡るという。専用のテーブルがあるくらいであるから、19 世紀のパリではブリッジが盛んであったのであろう。このような家具を見ながら、19 世紀のパリの雰囲気を想像すると、海を越えて、今、目の前に無事で美しくある偶然を有り難く思う。
ブロソー氏が今回このような家具を出されたのは、パリの人にも昔からのものを大切にして、壊れても修理して大事に使う習慣がのこっていることを、京都の多くの人に伝えたかったという想いからではなかろうか。パリは困難な時期を迎えているが、一日も早く平和で人々が安心して芸術を楽しめる日々が来るよう、京都より、パリを愛する者の一人として祈念したい。