「私の好きな工芸」 髙橋英一氏

「料理を引き立てる器」
髙橋英一氏

今回「私の好きな工芸」に出品して頂く器は、髙橋さんが子どもの頃から家族ぐるみでお付き合いされていた千家十職の楽家と永楽家の器。特に十二代楽さんのは「見たことがない」と髙橋さん自身が驚かれたという、とっておきの器です。

髙橋英一氏
髙橋英一氏
瓢亭・第十四代当主

京都南禅寺畔にある創業四百年の「瓢亭」は、幕末に刊行された「花洛名勝図会」では、既に京の名勝に数えられている。南禅寺の総門から本坊まで松林が広がり、「瓢亭」はその参道沿いに茶店を営み、半熟鶏卵が名物であったと記されている。

髙橋英一氏は、「瓢亭」の十四代目。1967年に当主となられたのであるから、そろそろ半世紀の間、厨房に立ち「瓢亭」の暖簾を守ってこられたことになる。「瓢亭」の本館は創業当時から残っている茅葺き屋根の茶室や歴史を感じられる離れ座敷などがある。髙橋氏の趣味は広く、自邸の庭に百五十種類以上の山野草を育て、瓢亭の座敷に花を活けられるのが日課と言われる。また作陶の腕前もなかなかの評判である。考えてみれば、日本料理は目で楽しむことも大切で、料理で使う庖丁を慈しまれるように、料理で使われる器も理解されるために作陶されていらっしゃるように私には思われた。瓢亭の庭が見事に息づいているのも、髙橋氏の日ごろの行き届いた手入れの賜物なのである。

今回出品して頂いたのは、千家十職の十二代の楽さんと先代の永楽さんのもので、両家とは髙橋さんが子供のころから家族ぐるみのおつきあいをされており、想い出も多く持っていられる。千家十職とは、この千利休を祖とする三千家(表千家、裏千家、武者小路千家)の家元との仕事を中心に受け、三百年から四百年以上家業を継いできた職人集団である。日本独自のものであるので、十家を職人とは、一線を画して、職家と呼んでいる。瓢亭もまた三千家とのつながりが深く、それぞれの作法に従ったお茶事を営まれており、楽家や永楽家との繋がりが深いのも京都という街がもつ歴史から頷けるものである。髙橋さんは、良い器は決して料理の美しさを壊さず、引き立てると言われる。今回出品された作品の作者である楽家、永楽家の先代は髙橋氏を幼い時から可愛がって下さった方で長い付き合いがあられたという。赤桃形平鉢(弘入作)は見たことがない素晴らしいものだとすぐに購入されたという。また永楽家らしい美しい色合いの交趾釉唐松絵入小鉢も、色が艶やかにもかかわらずしっかりと料理を引き立てることができる優れた器である。

「赤桃形平鉢」 弘入 十二代楽吉左衛門
「赤桃形平鉢」 弘入 十二代楽吉左衛門
「交趾釉唐松絵入子鉢」 即全 十六代永楽善五郎
「交趾釉唐松絵入子鉢」 即全 十六代永楽善五郎
「交趾釉唐松絵入子鉢」 即全 十六代永楽善五郎
「交趾釉唐松絵入子鉢」 即全 十六代永楽善五郎