「私の好きな工芸」 谷川俊太郎氏

「大好きな真空管ラジオ」
谷川俊太郎氏

谷川俊太郎先生との出会いは、陶芸家鯉江良治氏の対談で司会を務めさせて頂いたことに始まります。その対談での発言がきっかけで、谷川先生お気に入りのラジオが京都工芸繊維大学に寄贈されました。今回は「私の好きな工芸」で180点あるラジオの中からお気に入りナンバー3を出品頂けました。

谷川俊太郎氏
谷川俊太郎氏
詩人

谷川俊太郎先生との出会いは、2010年4月に京都工芸繊維大学で陶芸家鯉江良治氏の対談「言葉の力、ものの力」において、司会を務めさせて頂いたことに始まる。その席上で、谷川先生がコレクションしている「ラジオをもらってくれない」という発言をされ、当時の江島学長が「頂きます」と答えられたことで、先生のラジオコレクションが寄贈されることとなった。現在、コレクションの一部は図書館のグローバル・コモンズという国際交流の場に常設されて、開館されているときは、どなたでも見られるようになっている。

今回出品頂いたラジオもそのコレクションの一部で、今年9月に久しぶりに愛するラジオとの再会を果たした先生に選んで頂いたものである。その折に、「すき好きノート」という本を頂いた。それは「好き」を尋ねあうという読者との対話のなかで一冊の本が生まれるという仕組みになっていて、その中の第一の質問は「一番好きな言葉はなんですか」である。先生の場合は「そこで数年来好きなコトバは〈好き〉です、と答えることにしている。〈好き〉は〈愛〉よりも気軽に使えるコトバだし、明るく肯定的なコトバだから、一種透明感がある。(中略)何かを誰かを好きになることは、生命の原動力だと思う」と書かれていた。本の出版とこの展覧会を控えていっぱいいっぱいだった私は、この一節を読んで心が急にほどけたのか涙が込み上げてきた。なんて素敵な応援と教えであろう。こんなさりげない優しさが谷川俊太郎流である。

ラジオのコレクションは、もともとは谷川先生宅に置かれていたものである。1970年代の初め頃からようやく生活の余裕ができるようになられ、若い頃から憧れていたラジオを蒐集されるようになる。そして冒頭の対談の後、180点余りラジオを本学に寄贈して頂いた。

まず、シンプルでいかにも谷川先生好みのラジオはRCA(Radio Corporate of America)ビクターのもの、CD型のラジオは本学の人気投票で堂々一位を獲得したものでSPARTON、1936年のもの、女性の横顔が描かれている美しいラジオは、STEWART WARNER、1933年のものだ。1930年代のニューヨークはエンパイヤ・ステート・ビルをはじめとした高層ビルが建ちはじめ、舞台や映画など様々な文化が花開いていたであろう。耳をすませば、その頃のアメリカの音楽が聞こえてきそうだ。

ラジオ
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RCAビクターラジオ
RCAビクターラジオ
ラジオ
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