インタビュー:佐藤敬二

“技術”と“切り口”をつなぎ合わせることが大切

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佐藤さとう敬二けいじ 京都精華大学 教授

京都市立芸術大学卒業。漆・木・竹・金属・陶器など自然素材を使った生活用品の企画とプロダクトデザイン、デザイン評論を手がける。分野は伝統産業、素材と技術、工芸史、近代京都の工芸と「神坂雪佳」研究、京漆器、京指物、京銘竹・竹工芸、金工、京焼・清水焼のデザイン研究。専門分野は伝統産業論/デザイン史・デザイン論/工芸史・工芸論/インテリア・プロダクトデザイン。著書に『京のかたちと文様の事典』(PHP研究所)など。
https://www.kyoto-seika.ac.jp/edu/faculty/sato-keiji/

文化と経済の間に

伝統産業とは、文化活動と経済活動の間にこそ存在しています。その中で、どのように需要を促進していくのか、といった現実的な部分の議論も大切なのではないかと感じます。
足元を着実に固めていくようなシステムをつくり、経済活動としても自立したサイクルをいま一度見つめる時期がきているのではないでしょうか。
具体的には、職人の育成と平行しながら[マネジメント][マーケティング][プロデュース]の実践もおこなうということ。また、使い手への啓蒙活動も含めて考えていかなければなりません。そういった双方を”つなぐ”ような役割を担う人々が、今後ますます必要となってくるでしょう。従来型の職人ではなく、商売人だけでもない、両方の発想を持った人々が、新しい視野で社会の意識をすこしずつ変えていくような気がしています。
工芸の持つ高い技術を保ったまま、どこか現代にもなじむスタイルが世の中に求められつつあります。これまでは歴史的な側面からすこし難しいところのあった”工芸”と”デザイン”のかけあわせを、フラットな関係から再考する局面がまさに訪れているといえるでしょうね。

「工芸とデザイン」

精華大学は今回の鷹峯フォーラムにおいて「工芸とデザイン」というタイトルで展覧会とトークセッションを開催します。

トークセッションにご登壇いただく金谷勉さん(セメントプロデュースデザイン代表取締役/クリエイティブディレクター)は精華大学出身でもあり、工芸全体のプロモーター的な役割を担いながら、実際に商品へ落とし込む際には”売れる”ものづくりまでをも見通されている方です。

杉本節子さん(料理研究家)は、代々杉本家に伝わる「歳中覚」という儀式や献立を記した暮らしの覚書を、現代的なまなざしで再発見されています。暮らしに根づいた伝統や工芸のあり方を伺えるのではないかと思います。

中川周士さん(中川木工芸 比良工房主宰)は、精華大学の立体造形科出身で、木桶の製作技法を活用して楕円形のシャンパンクーラーを作るといった”作家”としての側面も持つユニークな職人さんでもあります。

山中源兵衛さん(清課堂七代目当主)はご自身が錫の職人さんでもあり経営者でもあります。若手の女性職人さんを雇用し、新しい視点からの発信にも意欲的です。

こういった方々をゲストとしてお迎えしながら、工芸を中心とした伝統文化と現代的な生活様式をつなぐ役目としての”デザイン”についてお話していただく予定です。

工芸の過去と現在、これから

多くの工芸は、100年以上前に確立された技術を元に現在も製作が行われています。そういった、とても古くからある”技術”と、今の時代に合わせた”切り口”をつなぎ合わせることが、今後の手仕事を考えるうえでのキーワードとなる気がしています。

21世紀鷹峯フォーラム全体の活動を通して、昔から伝わってきた事・現在行われている事を改めて話し合う中で、今後の課題が浮き彫りになってくるのではないでしょうか。

そしてまた、こういった議論を継続させていくことで未来を見すえた工芸のあり方が、すこしずつ定まっていくように思います。